◆ 木造建築など加害昆虫が生息してる対象物を60℃程度まで加温し、一定時間保持すると、昆虫の成虫、蛹、幼虫や卵まで死滅させることができます。これは虫の体を構成しているタンパク質の変性によると考えられています。
◆暴露する温度と保持時間との関係は、T.Starng氏の総説(1992)によって明らかにされています。
◆60℃よりも低い温度でも暴露時間を長くすると死滅するようですが、短時間(建造物では3日程度)で完全に死滅させるために本処理では60℃としています。
◆文献調査によると、木材の場合、60℃程度では、構成成分や物性に変化はないと考えられます。
◆この原理は、美術工芸品、紙や布製品に生息する昆虫にも適用されますが、これらの処理時間は、短時間でよいと考えられます。
◆またカビ類(菌類)については、50℃程度で殺菌効果が発現しますが、高温耐性の菌類の不活化を想定して、60℃で1時間程度の処理は必要と考えられます。ただし菌類の胞子については、湿熱状態で60℃・2時間という処理条件を設定すべきと考えられます。
◆ 対象物を構成している材料のうち、特に木材については、温度変化や含水率変化によって膨張・収縮します。特に水分変化に対しては大きく膨潤収縮します。
◆ 例えば室温から60℃まで加温する際に、湿度を一定にして加温すると、加温中に乾燥し、含水率が低下し、木材は大きく収縮し、対象物を毀損するリスクが高まります。
◆ そのため処理では、加温中に加湿し、降温中には除湿します。この操作は、木材の平衡含水率曲線に沿うように温度変化を与えることを意味し、これによって加温・降温中に対象物の含水率変化と、それによる伸縮が生じないように温湿度変化を与えることとしています。
◆ 原理的には、この処理では水分変化がなく、これによる伸縮は生じません。また温度変化による伸縮については、普段は経験することのない温度まで加温するものの、木材の熱による膨張率は、水分変化による場合は極めて小さいので大きな問題にはなりません。
◆ しかし、対象物の大きさ、熱的特性や水分の吸脱着特性によっては、表面から内部に向かって温度や水分勾配が発生する可能性があるため、処理の影響については慎重に評価する必要があります。
◆ 処理による伸縮量の許容限界の目安としては、1年間を通じて環境の温湿度変化によって生じる伸縮(ひずみ)と比べて、処理によるひずみがそれ以下であれば、問題ないと考えています。実際の検証データからは、処理によるひずみは、許容限界以下であることがわかりました。
◆ その他、処理による色や光沢の変化、剥離や割れ、変形などについても、問題点は発見されていませんが、今後も慎重に検討する必要があります。