湿度制御温風処理手法に関する研究・開発は2013年頃から始まりました。
文献調査、海外での適用事例の検討を経て、基礎研究および開発研究を日光社寺文化財保存会、東京文化財研究所および京都大学などの研究者・技術者が実施しました。一連の開発では、建造物における甲虫害の駆除を目的としたシステムの開発を中心テーマとしてきました。
日光における未指定建造物を用いた検証3例を経て、本手法およびシステムが甲虫害の駆除方法として認定され、2023年には輪王寺護法天堂(重文)の解体材の処理、2024年には東照宮御仮殿鐘楼(重文)の処理が実施されました。
現在は、建造物用の処理システムの改良の他、美術品・工芸品向けの処理手法の開発、水損資料を含む書誌資料の菌害・虫害の処理手法が検討されつつあります。
2008年に、日光山輪王寺の本堂(三仏堂)の修理現場において、激甚な虫害が発見されました。詳しい調査の結果、この虫害はオオナガシバンムシによるものと判明し、主要な構造部材に大きな断面欠損が生じていることが明らかになりました。また現場からは、生きた成虫が多数捕獲され、進行性の激甚な虫害であると診断されました。
この事態を受けて、加害昆虫を駆除する必要があると判断し、2013年夏に、建物部材を天幕で覆い、その中に殺虫ガスを吹込む燻蒸処理が実施されました。この処理のために漆仕上げの部材へのガス浸透試験、実施計画や安全対策などの準備がなされました。
この殺虫処理は他に類をみないほどの大規模なもので、殺虫効果と安全確保が大きな課題となりました。これを受けて、より安全で効果的な手法の必要性が強く認識されるようになりました。
◆ 湿度制御温風処理の原理確認や効果検証の基礎的実験は、東京文化財研究所と京都大学が担当しました。装置開発と実用化はトータルシステム研究所が担当しました。